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戸谷研 学生心得

以下の文章は、私の研究室で研究する人に理解しておいてほしいことを述べてあります。普段、私の学生によく言っていることですが、毎回同じことをいうのも効率が悪いのでここにまとめたというわけです。大学院で私を指導教員にすることを考えている人にとっても参考になるでしょう。基本的に大学院生向けに書かれていますが、大きな方針は学部卒業研究の学生に対しても同様です。

目次
1. 大学院生の教育方針
2. 具体的に研究を進める上でのガイド
3. 研究者になりたい人に

 


1. 大学院生の教育方針

1.1 研究とはどういうものか 

研究とは、何か新しいことを見つけるか、あるいはまだ調べられていないことを詳しく調べるなど、とにかく過去に他の人がやっていないことをやることです。 これが研究と勉強の決定的な違いです。 ですので、大学入試や大学院入試でいい成績を出す人が有能な研究者とは全く限らないのです。 入試で測っているのは計算能力や問題処理能力であり、これらは研究の遂行上「必要な」スキルでしかありません。 最も重要な、新しいアイデアを出す発想力やオリジナリティ、研究分野の動向を見抜く眼力などは全く測られていません。 ですので、院試でよい成績を挙げても研究者としては成功しない、ということも珍しくありません。

どういう研究が評価されるのでしょうか。 それは、とにかく何かの意味で役に立つ仕事です。 もちろん、宇宙物理学の場合、実生活に役立つというのではなく、宇宙をより深く理解するために役立つという意味ですが。 単に誰もやったことがないことをやるだけではよい評価は得られません。 (ごくたまに、世に出た時点は意義が良くわからなかったが、あとで偶然に役に立つことになった研究もありますが、例外的です。) 従って、計算能力や理解力だけではだめで、その分野の大局的な流れを戦略的に読んだ上で良い研究テーマを見つける、あるいは選ぶことが成功への重要な鍵になります。

私の指導教官の佐藤勝彦先生がおっしゃっていたことですが、研究には三つの重要な要素があります。 (1)研究の意義、目的、(2)解析や実験などの研究本体、(3)論文執筆、発表などのプレゼンテーション。 若い学生はとかく(2)のみにエネルギーを注ぎがちです。 しかし、このどれかひとつでもかけると、せっかくの努力が評価されないことになるのです。 これはある有名な先生の話だそうですが、研究の価値(Value)、V はV=IC という方程式で決まる。 ここで、I (Importance) と C (Completeness) はそれぞれその研究の重要性と達成度です。 重要性の高い(Iの大きい)研究は、それだけ多くの人が挑んでも解けない難しいテーマでもあり、たいていの研究は達成度が低い(Cが小さい)。 一方、確実に成果のあがる(Cが大きい)研究は得てしてインパクトも小さい( I が小さい)。 我々は、このバランスをとりつつ、まだ誰もやっていない研究で、かつ V が最大になるようなものを選ばないといけません。

1.2 研究テーマの選定

私の研究室では、

(1) 学生が自分でテーマを見つけて、研究を遂行する
(2) 戸谷のほうからテーマを提案し、学生はその研究を行う、

のどちらでも選択できます。 もちろんどちらでも平等に、私は可能な限りのサポートを行います。 (1)のほうが自分が一番やりたいことができる反面、私が馴染みのない分野やトピックだと十分にサポートできない可能性があります。 また、若い学生の段階では、その研究の意義や実現可能性についての判断ができませんから、あまりに難しい、あるいは人から興味を持たれないテーマを選んで袋小路に陥るリスクがあります。 (2)のほうでは、私はなるべく、特に修士の学生に初めて与えるテーマでは、「確実に論文になりそうな仕事」を与えるようにしています。 これは、学術振興会のDC研究員などの資格を得て生活資金に余裕を持って研究生活を送るためにはなるべく早く論文を書かないといけないという現実的理由がひとつ。 もう一つは、駆け出しの学生にはまずは比較的簡単に論文になるテーマで実際に論文を書いて、自信をつけるとともに「研究とはどんなものか」を肌で知ってもらうのが何より大切だと考えているためです。 その上でより難しいテーマにチャレンジしても遅いということは全くありません。

学生に最初にテーマを与える時期は、通常、大学院生はM1の夏休み前、学部4年の卒業研究の場合は後期の開始時です。 それより早く始めたいという人は相談に応じます。 一方で、遅くともこの時期までにはテーマを決めて研究を始めて欲しいと考えています。 M1のうちは勉強させたほうがよいという意見もありますが、私はむしろ、なるべく早くテーマを与えるようにしています。 それは、目的意識の薄い勉強(輪講など)をいくらやっても実のある知識は得られず、むしろ、実戦として研究をするという目的意識の中で必要な勉強をしていくほうが、真に自らの血となり骨となる知識が得られると考えているからです。

私の提案するテーマを選んだからといって簡単に論文が書けることが保証されているわけではありません。 なるべくそのようなテーマを与えるよう努力していますが、しかし研究は by definition で何か新しいことに挑戦するものですから、予想外のことが必ず起こります。 結果的に成就しないというリスクは常につきものであると考えてください。 私は皆さんが良い成果を出せるよう最大限努力しますが、神様ではありませんので、うまく行かない時も、先を読み誤る事もあります。

私のよく知っている分野でのテーマを選ぶか、あるいは良く知らないテーマを選ぶか、どちらがよいかは一概に言えません。 前者のほうが確実に論文を書く上で安全パイとも言えますが、それだけよく研究された分野であり、あまり新しいことは残っていないかも知れません。 後者のほうが、全く新しい方向の研究が生まれる可能性は高くなります。 私のこれまでの研究実績の中でも、敢えて良く知らないけど興味のある分野にチャレンジし、今までの自分の専門知識を応用しながら模索する中で、新しい概念が生まれ、世界的にも評価される仕事につながった例があります。 また、これは米国のある高名な研究者の言葉ですが、自分のよく知らないテーマに挑戦し、自力で研究を完結させる学生のほうが、有能な研究者に成長し、アカデミックポジションを取っていく例が多いそうです。 指導教官の十八番のテーマを選ぶと、論文はかけても、学生自身の創造性やユニークさが失われてしまう可能性もあると思います。

以上のような点をよく考えた上で、自分の責任で研究テーマを決定してください。 上に書いたように、あらかじめベストであるとわかる選択はありえません。 結局最後は、本人の「やる気」と「実力」と「時の運」です。かつて仁科芳雄は朝永振一郎に、「成果が出るかどうかは運です。努力して運を待て。」と言ったそうです。「努力した上で待つ」というところが重要なのでしょう。 似た言葉にパスツールの "Chace favors the prepared mind."というのもあります。

なお、ここで書いた内容は主に修士の学生を念頭においています。 博士課程に進学したら、自分の研究テーマはまずは自分で探す努力をしましょう。 自分で研究テーマを設定できない人は一人前の研究者にはなれませんので。 もちろん、テーマ探しに関する相談には応じます。

1.3 研究の進め方

上記 (1), (2) どちらの場合でも、私は学生に対して大まかな方向や方法を示唆するのみで、学生が自ら考えて主体的に研究を行うのが基本です。 ただし、多くの共同研究者がいたり、あるいは観測とも関連した大きなプロジェクトなどの場合は、プロジェクトの一員として確実に結果を出していく責任があるため、通常より強く明確な指示を与えることもあります。 しかしその中でも、「自分の頭で考える」ことが何より重要です。 いくら論文の数を増やしても、自分の独力で研究テーマを見いだし、遂行し、完成発展させる能力がなければ、研究者として高い評価を得ることはできません。 頭を使わずに私のマシーンとなるような人間をつくることは目的にしていません。

質問や相談は随時受け付けています。 気軽にオフィスに来てください。 研究室の学生や課題研究の学生の方は特にアポイントを取る必要はありません。 (初めて訪問される方はメールでアポイントを取ってください。) 出張中でも、メールは大抵読んでいますのでメールで議論も可能です。 

学生に主体的に研究を進めてもらっていても、一人で進めていると、えてして変な方向に暴走するものです。 さんざん暴走した後に私のところに持ってきて、結局出直しということになると大変な時間の無駄になります。 そのようなことを防ぐため、週に一度、私の学生を集めてミーティングを行っています。 各学生に、一週間の研究の進展状況の報告や、新着論文の簡単な紹介と議論をしています。 研究会や学会で出張した場合は、その報告もしてもらってます。

研究は、決して予定通り、予想通りに進むものではありません。 研究を進める上でいろいろ調べたり勉強する中で、当初の目的がすでに過去に行われていたり、あるいは現在ではあまり意味がなくなっていることが判明するということはよくあることです。 一方、いろいろ勉強する中で、少し違った研究テーマを見つけることができるかもしれません。 こうした柔軟な着想が大変重要です。 私が学生に与えるテーマが、常に良いテーマであり、確実な成果が保証されるというわけではありません。 研究を進める中で、「この方向よりも、むしろこういう形で進めたら良いのではないか?」、「このように研究テーマを変えたら良いのではないか?」ということを常に自分の頭で考えるようにしてください。 そして、どんどん私にも話してください。 良い方向であれば積極的に応援しますし、良くないと思えばその理由を話します。 自分で研究テーマを見つけられる学生こそ、将来の研究者として有望です。

1.4 研究と勉強のバランス

研究者にとって、新たな知識を吸収する「勉強」は一生大切ですが、特に学生のうちは勉強が重要です。 特に理論家は、様々なことに興味をもち、自分の幅を広げることが大切です。

この勉強と研究のバランスをどうとるかはなかなか難しい問題です。 私の経験で言うと、最先端の研究こそ最高の勉強です。 まずは、実際に研究を始めたら、それに集中することを薦めます。 一本の論文を書くためには、それだけでも数多くの論文を読む必要があり、自然に勉強になります。 そうして実戦的に得た知識は、ただのセミナーやゼミで聞いた知識よりはるかに身になるものです。 そうした知識は、今の研究が終わって次のテーマを考えるとき、また、専門の幅を広げようとするときにきっと役に立つでしょう。 若い大学院生に早くから研究に集中させると視野が狭くなるという意見も時々聞きますが、私は必ずしもそうは思いません。 自分の研究という実戦の中で知識や視野を広げていくことが一番です。

ただし、自分の研究以外で全く勉強しないのも困りものですから、普段教室で行われる談話会や関連分野のゼミなどは、視野を広げるための義務と考えて必ず出席してください。 また、そうした場では積極的に質問をすることを強く推奨します。 特に、研究者としてこの業界で生きていこうと考えている人は、みんながいるところで積極的に質問や発言をすることが自分の評価を高めるための大切な自己アピールになります。

これに加え、修士課程など学年が若いうちは大学院講義や集中講義に出席することも卒業に必要となります。 博士課程ぐらいになり、単位上必要が無ければ、無理に全ての集中講義に出る必要は無く、自分の研究で忙しければそちらに集中するという場合もあるでしょう。 もちろん、興味があったり必要を感じれば、集中講義で集中して勉強することも大変よいことです。

一方で、あまりゼミなどに出すぎて自分の研究が進まないのも困りものです。 適度なバランスをとるようにしてください。 様々なことに興味を持って勉強してはいるものの、それにとらわれすぎて、肝心の自分の研究が進まない人も時々見かけますが、これも問題です。 まずは今の自分の仕事を論文として完成させて、それから次のテーマに移るときに勉強しても遅くはありません。 今の時代、研究者として職を得るにはどんどん論文を書いていかないとだめであるということも忘れずに。

 

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2. 具体的に研究を進める上でのガイド

2.1 astro-ph をチェックしよう

自分で研究テーマを見つけたい人は、業界の最新の動向を把握する必要があります。 それには、最新の論文を眺めてみることが一番です。 プレプリントサーバー astro-ph というものがあり、 世界中の宇宙物理学者が最新の論文をポストしています。 プレプリントというのは、査読つき論文誌に掲載される前に著者が他の研究者に回覧するものです。 査読前のものもあれば、査読を受けて受理・掲載が決まったものもあります。 誰でも投稿できるので、たまに怪しい論文も混じっていますが、それを見抜くのも研究者としての技量です。 実際に研究を始めて研究者としての第一歩を踏み出したら、ここに出る新着論文を日々チェックすることは大変重要です。 自分の研究に重大な影響を与える最新論文を見つけるかもしれません。 私の研究室で研究をする者は、astro-ph を毎日、少なくともタイトルだけは全ての新着論文をチェックすることは義務であると考えて下さい。 新たな研究テーマの発掘にも役立つでしょう。 また、査読を経て論文誌に出版された論文は ADS で取得、印刷できます。 これらは査読を通った論文ですから、それなりのレベルは保証されています。(例外もありますが、、、)

2.2 数値計算やコンピュータの使用について

今の時代、やはりコンピュータは研究に不可欠です。
  • インターネットからの論文のダウンロード
  • 研究で行う科学技術計算やプログラミング
  • 論文の作成(我々の業界では LaTeX 必修)
  • 図表、講演スライドなどの作成
  • 研究会でのプレゼンテーション
など、ほとんど全てパソコンで行われています。最近の学生は皆さん自分のノートPCぐらいは持っていることが多いですが、それで大抵の研究のための作業は可能です。また、研究室では院生一人に1台のデスクトップマシンぐらいは与えられることが普通です。 研究上必要と認められれば、大学の経費でノートパソコンなどを購入することなども可能なので、随時相談してください。

場合によっては、普通のパソコンでは出来ないような大規模数値計算(シミュレーションなど)を、大学や研究所のスパコンで行う場合もあります。 ただし、私の研究室の場合は、多くの人の研究上の計算は普通のパソコンで可能なレベルです。

最後に重要なこととして、データのバックアップは各自の自己責任でこまめにやりましょう。 M論、D論直前にハードディスクがクラッシュして全てが消えても、誰も助けてくれません。 また、データ消失で研究が大幅に遅れると自分のみならず共同研究者にも迷惑をかけます。 「ハードディスクは壊れるもの」という心構えで。 必要な機器は大学の経費で購入することも可能なので相談してください。

ほとんどの研究では、プログラムを組んだりスクリプトを書いて数値計算を行うことになります。 使う言語や必要な技術は様々な場合がありますが、一般的なコツとして、Numerical Recipes などの既存のライブラリやルーチン、オープンソースを用いるというのがあります。 若い学生だとゼロから自分で作ろうとして苦労する人も時々みかけますが、先輩に聞いたりインターネットなどで調べて、使えるものは遠慮無く使っていく方が効率が良いのは当然です。

2.3 自分の仕事の宣伝とプレゼンテーション

研究が完成したら、積極的に宣伝しないといけません。 学会や研究会に積極的に参加して自分の研究を発表してください。 他大学の研究室を訪問してセミナーをさせてもらうのもよい方法です。 研究職を目指すなら自己アピールこそ最も大切なものです。 論文だけでなく、こうした学会発表の実績も、学術振興会特別研究員に応募したり、あるいはポスドク研究員や大学の教員に応募するときには重要です。

プレゼンテーションの技量は自分の研究を正しく伝える上で大変重要です。 「プレゼン道入門」などを読んで自らのプレゼン技術アップに努めましょう。 折角よい研究成果なのに、プレゼンが下手なので会場の人に全く評価されなかった、ということはよくあることです。 プレゼンがうまければ、研究会などで招待講演を依頼されることも多くなります。 プレゼンの上手下手は、本来、その研究の価値とは関係ないことですが、現実にはプレゼンのうまいことは研究者にとって様々な場面で大変有益です。 将来大学での職を狙うとき、特に教育系の大学では講義のうまさも指標になるそうです。

なお、学会などに講演を申し込む場合は十分に余裕を持って私や他の共同研究者に予稿を送ってチェックしてもらうこと。 締め切り直前に突然発表したいと言われても、共同研究者の了解が得られなければ申し込みもできません。 私も常に学会の講演申し込み締め切りをチェックしているわけではないので、学生の皆さんが自分でしっかり確認して余裕をもって準備するようにしてください。

2.4 学会加入など

私の研究室に入ってくる人は、まずは日本天文学会は必ず入ることになるでしょう。 天文学会に加入すると、tennet という天文学会のメーリングリストに入れます。 会員でなくても、天文学会のWWWページからアーカイブが見れます。 これは研究会など重要な情報の宝庫ですから、必ずチェックしましょう。 また、分野によっては、日本物理学会にも入るケースもあるかもしれません。

天文学会の他に、天文学の各分野の研究者団体があります。 私のように理論研究を主とするものには、理論天文学宇宙物理学懇談会があります。 他に、光赤外天文学連絡会、宇宙線研究者連絡会議、など。 多くの場合、査読論文を出版している研究者なら入会できます。 各コミュニティで重要な案件が議論されたり、重要情報の連絡や交換などが行われる場所なので、自分の研究分野に合わせて、何か一つには加入するとよいでしょう。

2.5 英語の能力について

英語で論文を書く能力は、一人前の研究者になるためには必須の条件。 英語論文の書き方についてはいろいろ書籍も出ていますので参考になるでしょう。 また、最初のうちはネイティブの外国人の書いた論文の表現を真似るというのも良い方法です。 ある文章の書き方で迷ったら、そういうことが書いてありそうな論文にあたったり、また、関連用語をキーワードに ADS や astro-ph で論文を検索するのも良い方法です。

一方、国際会議などの発表では英会話能力も重要になります。 これは、日本にいて何も努力しなければ一向に改善しません。 英会話学校などは一つの手ですが、経済的に負担が大きい上に、時間的制約もあるのでうまくいかないことも多いようです。 気軽に始めるなら、お薦めはNHKラジオ英会話です。 書店で毎月のテキストを購入するだけというタダ同然の値段でできます。 洋画DVDを英語字幕でみるのもよいでしょう。

 

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3. 研究者になりたい人に

3.1 宇宙物理学の研究職の現状

東大や京大などの難関大学院に入学したといっても、天文学・宇宙物理学の研究で飯が食える研究職、アカデミックポジションに就くまでにはまだまだ長く困難な道のりが待っています。 理論天文学宇宙物理学懇談会による、「日本の理論天文学」には、理論天文学、宇宙物理学の研究を行っている全国の研究グループがほぼ網羅されています。 そのなかの常勤スタッフ数(教授、助教授、講師、助手)を数えてみると、国立大92名(旧七帝大 53、 その他29)、それ以外の大学や研究機関24、これに国立天文台16名となっています(2004年版による)。 これらのスタッフはだいたい30年ぐらいは在職しますから、ポストの数が変らなければ、新しく常勤のポストの募集がでる頻度は大体(92+24+16)/30=4〜5名/年ということになります。 この数字を、毎年大学院に入学してくる全国の理論志望の学生数と比較してみれば、研究者として職を得ることがどれだけ大変か、わかるでしょう。 ちなみに追い討ちをかけるようですが、ここで挙げたスタッフ数は全ての常勤スタッフを数えているので、教育duty が比較的少なく、研究環境の良い大学のポストとなるとさらに限られてきます。

良いポストは当然、熾烈な競争を勝ち抜いて初めて得ることができます。 ひとつの朗報は、少なくとも我々の分野におけるトップクラス研究機関における人事では、ほとんど純粋に研究と教育の能力と実績だけで評価され、いわゆるコネとか学閥、出身大学による差別などはほとんどないということです。 従って、結果を出せば誰にでも平等にチャンスはあるということです。

競争に敗れたらどうなるのか? 上に挙げた数字からいうと、多くの大学院生がAPにつけないのは事実ですが、その多くは修士号、博士号取得時あるいは在学中に民間企業などに就職します。 私の知っているケースは多くは東大、京大の場合ですが、こうしたネームバリューのある大学なら、修士卒業で企業へ就職するならなんの問題もありませんし、博士卒業でも選択肢は狭まりますが行き先がないということはまず無いようです。

では、ポスドク研究員として博士卒業後も研究を続けた場合はどうなるでしょう? 現在、特に理論の分野では常勤職につけないポスドクが増えて深刻な問題になっているのは事実です。 そして、ポスドクの全てが東大や京大など研究環境の良い大学に就職することが不可能なのも明らかです。 しかしながら、私の見ている範囲では、それなりのアクティビティと実績を持ち、常識的な人格と社会への適応力を持つ人であれば、私立大学や地方国公立大学などにも積極的に応募して、助手や講師の職を獲得していくケースが多いです。 (もちろん、その場合は天文学の研究という意味ではかなり制限される就職先であるケースもあります。) 「それなりのアクティビティと実績」とは具体的には、例えば年に平均一本程度は筆頭著者として論文を書く、ぐらいでしょうか。 特に幸いなことは、天文学や宇宙科学は一般受けが非常に良い分野です。 従って、今まで天文や宇宙関係者がいなかった大学の物理学科や教養、教育学部に新しくポジションを獲るということも、他の分野に比べるとアドバンテージがあるといえるでしょう。

従って、きちんと努力している人であれば、そう悲観する必要は無い、少なくとも路頭に迷って人生を台無しにするようなことはない、というのが現在のこの業界についての私の感想です。 研究・教育関係の定職にさえ就いてしまえば、自分の好きな研究に使える時間こそ差があれど、安定した職場で好きな物理学、天文学に携わって生きていけるというのは魅力的といえるでしょう。

3.2 必要な覚悟と心構え

では、「きちんと努力」というのはどれくらいのことをいうのでしょう? 明らかな最低ラインは、「世の社会人が働いているぐらいの時間は研究・勉強する」ということです。 大学院生ならば、年齢的には同世代の世の人はみんな働いていることになります。 自分のペースもあるでしょうから、必ず9時−17時で仕事をする必要はありませんが、一週間のトータルの研究・勉強時間が、世の人の労働時間に比べて少ない場合は反省するべきでしょう。 いつまでも学生気分が抜けず、一日に数時間しか研究しなかったり、学部生なみに夏休みや春休みを取る人は、アインシュタイン級の才能と運が無ければ AP を狙う資格はないでしょう。 さらに言えば、これはあくまで「最低ライン」です。 よい研究成果を多くあげて、研究環境の良い大学や機関に就職していく人たちの多くは、それ以上に努力をしています。 土日もゴールデンウイークも正月すらも大学にこもって研究するような、そんな「メシより研究が好きである」「論文を書いて世に公表する事に何より快感を覚える」というような人たちがいることを忘れずに。 あなたの才能がそういう人たちとたいして変らないのであれば、あなたが彼らに勝つ唯一の方法はそれ以上に努力することだけです。 また、行き過ぎた競争は困るとはいえ、良い意味での野心や競争意識、競争を勝ち抜くプレッシャーに耐えられるだけの強い精神力も求められます。 言ってみれば、大学院生やポスドクは2軍3軍のプロスポーツ選手や、まだ世に認められない芸術家の卵のようなものです。 そういう側面では、一般企業に比べて大変厳しい世界とも言えますので、覚悟の上、進学して下さい。

才能と努力とどちらが重要かという質問を時々耳にしますが、どちらも重要であるとしか答えられません。 努力だけではどうにもならない面もありますし、一方でせっかくの才能を論文という具体的な成果につなげるには努力は絶対必要です。 近似的には「成果≒才能×努力」ということになるでしょう。「≒」の意味は、この等式にさらに「運」という要素が加わって確率的にバラツキが生じる、ということです。 要は、良い成果を多く出したほうが勝つ、ということであり、それが才能によるものか努力によるものかはどちらでもよいことです。

トップレベルの大学や研究所で研究職を取ろうと思ったら、大学院での目標を単に修士号の取得、博士号の取得に設定していてはだめです。 修士のうちにジャーナルに査読論文を出版して早めに学振をとり、博士課程では自力で論文を最低でも数本は出版するぐらいの心構えでなくてはそういうポジションは狙えません。 博士号などは、研究者にとって自動車免許程度のものであり、博士合格基準をはるかに上回る成果を挙げて博士号など「おまけ」でもらう、というレベルでないと厳しいでしょう。

上で「常識的な人格」と書きました。 あたりまえですが、どんなに素晴らしい研究成果をあげていても、人格に問題があったり組織に適応できない人はどこにも就職できません。 (実際にそういう人たちがいます!)  これは教育を要求される大学などでは特に大きな要素になります。 「就職できないほどの人格」は極端ですが、例えば、研究成果や実績が同程度なら、明るく人当たりが良くて、面倒な雑用でもわがままを言わずに自分の分担はきちんとやってくれそうな、しっかりした人が採用されるでしょう。 プレゼンや授業がうまそうな人も有利になります。 これは決して差別ではなく、トータルバランスで少しでも研究室や学科により多くの貢献をしてくれる確率の高い人を選ぶという意味で、採る側としては当然のことです。 (アメリカの大学などはもっと露骨に、授業やプレゼンの能力が重視されるといいます。)

また、同じ程度の実力ならよく知られている人、すなわち多くの研究者仲間と仕事でも友人としても交流している人が勝ちます。 ですので、大学院生の頃から夏の学校や、大学にゲストが来たときの飲み会などに積極的に参加して、全国あるいは海外の友人知人を増やすことが非常に重要です。 (酒を飲むことが重要ではありません。 飲み会に参加して話すことが重要。) また、研究会などで積極的に質問をすることも重要で、それにより、「ああ、あの人はアクティブな人なんだな」という印象を多くの人に与えることができます。 その質問が本質的で鋭い質問ならなおさら評価が上がります。 関連のある分野の研究者をつかまえて自分の研究を紹介したり議論したりすることも重要なアピールになります。シャイで引き籠もっているのは絶対に損です。 人付き合いが苦手な人も、できるだけ頑張って自己の性格を改善する努力をしていくべきでしょう。

3.3 学振の重要性

学術振興会の特別研究員になると、博士課程から月額20万円程度の給料がもらえます。 また、年間100万弱の研究費もつくので、海外の国際会議などにも参加できるようになります。 最初の応募は修士2年の5月ごろです。 (これにあたればD1からもらえますが、外れてもまた次の年に応募できます。) 奨学金と違って採用は基本的に実績、実力で決まりますので、論文をすでに書いている人のほうが有利になります。 学振にあたればバイトなどもしなくてすむようになりますから、研究時間も増えて、学振でない人たちとはますます差がつきます。 学振になるべく早く採用されることが研究者として生き残っていく上で重要なポイントです。 私の研究室では、最初に与えるテーマはなるべく論文になりやすいものを与えるようにしているのは一つはこのためです。 是非、早く論文を書き上げて学振を狙ってください。

3.4 民間企業などへの就職について

天文学、宇宙物理学を離れ、官公庁や民間企業などへ就職する場合については、私は全く経験がないので残念ながら皆さんのサポートはほとんどできません。 (もちろん、一般的な相談なら応じますが。) 就職活動は基本的に皆さんが自主的に行うことになります。 就職活動を始めると、それに多くの時間を取られ、大学での勉強や研究が遅れてしまうことが多く、私にとっても厄介な問題です。 なるべく早めに相談に来て欲しい、というぐらいしか言えないのが現状です。

 

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